マテーラに見る南イタリアの光と影
「イタリア」と聞いて浮かぶイメージ・・・ローマの遺跡、フィレンツェのルネサンス芸術、ヴェネツィアの水上都市、青の洞窟・・・もっと広げてシチリアのマフィアにナポリの火山とポンペイ遺跡、北部のアルプス・・・。あらためて考えてみると、「イタリア」という国が持つイメージの多様さに驚かされます。それもそのはず、現在の「イタリア」が誕生したのは1861年のこと。中世以降のイタリアは都市国家の集まりであったり、外国勢力の支配下にあったりとそれぞれの地域が波乱万丈の歴史を歩んできました。それぞれの町が強烈に際立つ個性を持っているのもその歴史ゆえなのでしょう。そんなイタリアの様々な「個性」を一度に楽しみたい!という方にお勧めなのが「イタリア大周遊 20日間」のコースです。野花が美しい5月、イタリアは最高の「大周遊日和」でした。
旅の始まりは既に夏の訪れを感じさせる陽射しが煌くシチリア島から。古代より様々な異民族の侵入にさらされたシチリアは、複数の文化が入り混じった独特のな雰囲気に包まれていました。古代ギリシアのようなローマのようなアラブのようなビザンツのようなルネサンスのような・・・。「シチリアは文化のモザイク」とはよく言ったものです。ちょっとぎょっとするようなデザインのトリナクリア(メデューサの顔から3本の足が生えた形のシチリアのシンボル)も奇妙にマッチしてしまうシチリアの摩訶不思議な空気を、うにソースのパスタに舌鼓を打ちながら満喫です。(うにの美味しさが分かるのは日本人とシチリア人だけだとか)シチリアからイタリア本土へは、橋を架ける計画があったりなかったり、いかにもラテン民族イタリア人らしい話題に事欠かないメッシーナ海峡から渡ります。南部イタリアの代表都市といえばナポリ、大人気観光地といえばカプリですが、今回はちょっと焦点を変えて私のお気に入り、マテーラを紹介します。
マテーラにはサッシと呼ばれる洞窟住居跡が広がります。2004年に公開された映画「パッション」の撮影地として起用されたことでその風景は世界的にも知られるものとなりました。今でこそ世界遺産に登録された名所となっていますが、20世紀後半の一時期「イタリアの恥」「悪夢」として封印された歴史を持ちます。何世紀にもわたり人々が暮らしてきた洞窟住居ですが、20世紀半ばには荒廃と貧困、人口増加により環境は劣悪を極めました。そして政府の強制移住政策により住民がいなくなりゴーストタウンと化したのです。世界遺産に登録されてからは観光客も訪れるようになり、再びサッシに住む人も増え始めています(リフォームして住むことを政府も奨励しています)。しかし、まだまだ廃墟が占める部分は多く、路地の奥にふと広がる無人の家並みに南欧の陽射しが乾いた影を落としている風景は、哀愁を帯びて胸に迫ります。陽気なイメージの強い南イタリアですが、北に比べ耕地が少なく歴史的に厳しい生活を強いられている地域も多いといいます。マテーラの散策はそんなイタリアの知られざる素顔に触れる貴重な機会だといえるでしょう。(宮澤)
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