2008年9月26日 (金)

惹きこまれる、ケルトの渦

Photo 先日「北アイルランド・南アイルランド周遊 13日間」より帰国致しました。

アイルランドと言えば、ケルトの話が欠かせません。ヨーロッパ大陸からブリテン諸島群に至るまで、広範囲にわたりケルトの遺産は発見されていますが、なかでもアイルランドは「ローマ化」を免れたこと、キリスト教化が土着信仰と融合する形で行われたことなど、いくつかの条件が重なって、ケルトの遺産を最もよく伝える宝の島と言われています。

 紀元八百年頃作られた装飾写本「ケルズの書」や、精緻な金細工や埋め込まれた琥珀の間を縫う渦巻きと紐紋様が圧巻の「タラ・ブローチ」など、ツアー中にアイルランドの誇る至宝の数々を実際にご覧頂くことができますが、そういった美術館や博物館に行かなくても身近に見ることのできるケルト美術は数多くあります。それは、ハイクロスと呼ばれるケルト十字架です。十字に円環を抱いたこの中世の十字架は、十八世紀後半からの「ケルト復興」によって、新たに墓標としてリバイバルしたので、現在でもあちらこちらの墓地に林立し、アイルランドの風景の象徴になっているのです。 Photo_2

 そんな風景を見ているうちに、ある疑問が浮かびました。古代ケルトの装飾からすでに見られる渦巻き模様は、彼らが信じていた生まれ変わりや、霊魂不滅の象徴とされますが、それにしても、なぜケルトは渦巻きを描いたのでしょうか。例えば、エジプトやインドにも同じような思想を表す絵図がありますが、人を描いたり動物を描いたりと、それは具象的な表現です。どうやらケルトには「美」を絵図として描いた、というより、デザインとして捉えるところがあるようなのです。文字による伝承を行わなかった古代ケルト人が、形として、図として残した装飾性に富む作品群は、見れば見るほどその美しさに惑わされ、その渦巻きの中に引き込まれてしまうほどに魅力的なものでした。

 Photo_3

ケルト装飾の大きな特徴は、何と言っても抽象的な紋様にあります。渦巻き、そして螺旋。永遠に終わることなく螺旋を描き続けるケルトの紋様を思うと、ケルト美術とは、新しい芸術を生み出しながら変容しては再生し、いつまでもうねり続けるものなのだと気づかされます。アイルランドは、驚くべき美の宝庫でした。(村上 大嗣)

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