リトアニア、十字架の丘に集まる想い
先日、「バルト三国とサンクトペテルブルグ 10日間」の旅から帰って参りました。
全部で4カ国を巡ったツアーでしたがその中で最も印象に残った場所、それはリトアニアの「十字架の丘」でした。「十字架の丘」はリトアニアにあるシュウレイという町から北東に10キロほど走ったところにあります。見渡す限りのどかな田園風景の中、バスをゆっくり走らせていると突如姿を現す不思議な丘、これが「十字架の丘」です。
緑の田園風景の中遠くから眺めるとそこだけ金や銀、グレー、茶色など様々な十字架で埋め尽くされ、周りの大地とはまるで異質なもののようです。バスを停めるとさっそく路を歩いて行きます。丘の前まで来て改めて目前を見るとその十字架の数にまず圧倒されます。
リトアニアはしばしば「十字架の国」とも呼ばれます。この場所に立ってみるとそれも納得。ここにある十字架の数はリトアニアの人口よりも多いともいわれています。なぜ街から離れたこんなところに沢山の十字架があるのか。今となっては正確なことは誰にも分かりません。しかし一説には1831年のソ連に対する蜂起の際、流刑、処刑された人々に対する哀悼の念から立てられたのが始まりだと言われています。リトアニアは、ポーランド、ドイツ、ロシアなど様々な国に占領されました。抑圧された民族、宗教のせめてもの抵抗の証だったのでしょうか。ソ連時代には軍は何度も何度もこの十字架の丘を破壊しようと試みたそうです。しかしその都度人々によって新たな十字架が立てられ、ついぞ軍もこの丘に立つ十字架を消し去ることはできなかったといわれています。
十字架の間を縫って丘の上に登ってみます。すると大小、種類も様々な十字架が所狭しと立てられているのが分かります。中にはよく見かける十字型のラテン系十字架に混ざって、正教の十字架、ケルト民族の十字架、ギリシャ系の十字架などリトアニア以外の国の特徴を持つ十字架も見られます。日本語で「世界平和のために」と書かれたものもありました。
現在この丘は、かつてのリトアニア人の民族抑圧に対する抵抗の証としてだけでなく、世界中の人々が、平和に対する想いや、民族のアイデンティティーなどを十字架に託し、祈り表現する場所なのかもしれません。
この十字架の小宇宙の中で、そのような人々の悲しみ、祈り、熱い想いを感じました。
リトアニアを訪ねた際は、ぜひともこの丘に足を伸ばし、十字架に集まる想いを感じてみて下さい。(川人麻未)
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コメント
プルコボとシェレメチェボでお世話になった者です。
右も左も言葉も知らない土地だと、ちょっとしたトラブルでも不安になってしまいますが、大変助かりました。
とはいえ御仕事の邪魔になってしまってないか、という違う不安はありましたが。
仰ってられてたとおり秘境への旅が沢山あって、見ているだけでも興味をそそられますね!行ってみたーい!
投稿: Dr.sakura | 2008年10月 2日 (木) 22時49分
Dr.sakura様
お久しぶりです。
無事にご自宅までお帰りになられたようで何よりです。
外国でトラブルはつきものですが、やはり個人でご旅行される時は不安だろうと思います。少しでもお力になれたのなら幸いです。私も、他の日本の方に思いがけずお会いして嬉しかったです。
なかなか個人旅行は難しいと云われるロシアを旅されていたDr.sakura様は相当な旅行通だとお見受けしました。弊社はなかなか個性的な国を取り扱っていると自負しておりますので、もし何かご興味あれば、お気軽にお問合せくださいね。 私、明日よりチェコ・ハンガリーに行って参ります!
投稿: 川人麻未 | 2008年10月 6日 (月) 11時16分