2009年2月26日 (木)

走る世界遺産トイ・トレインは笑顔をつなぐ(インド)

 Train_2

 先日、「トイ・トレインに乗車!ヒマラヤの里ダージリンとシッキム王国 9日間」より帰国いたしました。
 ダージリンと言えばまず「ダージリンティー」を思い浮かべるかと思います。17世紀には既にイギリスでも茶が飲まれるようになり、上流階級から一般庶民まで広く親しまれていましたが、当時茶の生産は中国の独占状態にあり、なんとか市場を開拓したいイギリスは、1820年代遂にインドのアッサム地方にて野生の茶葉を発見し、見事茶の生産に成功します。そして、その後ダージリンに茶葉が持ち込まれ、「紅茶のシャンパン」と呼ばれるダージリンティーが誕生するのです。

 前置きが長くなりましたが、世界で人気を得たダージリンティーは輸送が追いつかなくなり、茶葉の輸送用に造られたのが、今回のツアーの目玉である「ダージリン・ヒマラヤ鉄道(愛称:トイ・トレイン)」です。トイ・トレインは製造が急がれたこともあり、元々牛車が通っていた道に線路が敷かれました。それ故にトンネルもなく、ループやスイッチバック技術、急勾配を登るときには線路に砂を撒くという荒業を駆使しながら約2000mの高低差を結んでいる、世界でも珍しい山岳鉄道なのです。
 しかし、今回のツアーでは残念なことに現地でストライキが起こってしまい、元々予定していたダージリン~グーム間での乗車が適わず、ストが行われていない区域での乗車(シリグリ・ジャンクション~ニュージャルパイグリ間)となりました。トイ・トレインが今も多くの鉄道ファンに愛されている理由が1世紀以上も前の列車が今なお現役で使用されているためにあります。しかしながら、現在は徐々にディーゼル化が進んでおり、始発~終点までの直通定期列車もディーゼル車が使用されている現在、今回私たちが走った区間も本来ならば蒸気機関車が走らないはずのところでした。そんな中「シュッシュッ、シュッシュッ、ポッ、ポーッ!」蒸気機関車独特の臭いが立ち込め、汽笛が鳴ると、誰しもが驚き、その姿を眼にすると一瞬で喜びの表情に変わり、大人も子供もみんながこちらに手を振り、線路沿いでくつろいでいた犬や牛も驚き列車を追いかけます。Mt
 ここでの乗車に至るまでに、私たちの中に様々な不安があったことはもちろん、現地の人たちにしても、少し離れた所でストが起こっていることに対する懸念が少なからずあったことでしょう。しかし、トイ・トレインが走り出すと誰しも表情が明るくなり、今も昔と変わらぬ存在感で人々の中にあるのだと、思わず感激を覚えた瞬間でした。
 今回のストの原因は、シッキム~ダージリン地方は西ベンガル州に属しながらも、ネパール系住民が大多数を占める為、彼らが自治・独立を求めて活動したことによるものでした。この地はネパール、ブータン、そしてチベット(中国)に国境を接しているため、かつてより様々な民族が行き交い、それぞれの宗教・文化圏を築き、時には利権を巡る争いを経験してきたところです。そんな中でみんなに愛されているトイ・トレインは、人々のこころを繋ぐひとつの象徴のようにも思えて、少しだけ切なく、そしてより愛着深い存在となりました。

(彌永 亜実)

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