異界の大地シリア・ヨルダンへの旅
「シリア・ヨルダン隊商の道 13日間」のツアーから帰国した。
シリアやヨルダンでは、私たちを取り囲む情景があまりに日本と違うため、まるで一瞬「別の惑星」に降り立ったかのような不思議な感覚に陥る。乾いた砂漠や岩の大地が広がり、高速道路の名前はなんと「砂の道」(デザート・ハイウェイ)、ただひたすらに荒涼の一本道が続く。秋から冬にかけては特に乾燥しているため、たくさんの小さな竜巻が遠く砂煙の渦を巻き起こし、いっそう異次元の世界を演出する。
それと同時に、この地が有する歴史の深みに一歩足を踏み入れると、「シリア」とか「ヨルダン」という国境線は、あまり意味をなさないことに気付く。独立からたかだか六十数年、二つの国として違う道を歩んで来ても、それを大きく上回る六千年以上の長い間、シリアもヨルダンもあるいはイスラエルも、ヨーロッパからアフリカ、アジアへつながる交通・戦略上の要所として、怒濤の「政権交代」の物語を刻みつけて来た「ひとつながり」の場所だ。
だから両国を「なんとなく、イスラム圏」と考えている人は、間違いでなくとも正解には遠い。ツアーでもしっかり訪れる、先史時代の文字や音楽発祥の地に始まって、モーセの没したネボ山や、パウロが落馬して改心した新・旧聖書ゆかりの場所。他にも中世十字軍の要塞クラック・デ・シュバリエや、あるいは現代史ではオスマン・トルコ支配の足跡に、現代紛争が生み出したパレスチナの難民キャンプ(傍をバスで通過する)・・・・・・シリアヨルダンには、世界史がそのまま凝縮されたかのように人類の歩みが刻まれている。ツアーは正に、その怒涛の歩みを追跡、体感する日々だった。
そんな中でも格別に迫力溢れる旅のハイライトは、やはり「ペトラ」を抜きに語ることはできない。
紀元前一世紀頃、アラビア半島の通商の拠点として栄えたナバティア人が作り出したペトラ遺跡。朝の涼しい風が吹き抜ける快晴の中、ホテルからものの二分も歩けばそこは二千年以上も前に彼らが暮らしていた場所だ。悠久の時の浸食によって作り上げられたこの天然の要塞には、崖に挟まれた「シーク」(裂け目)という名の一本道がくねくねと続く。乳褐色の地面を踏みしめながら中へ中へと進んでいけば、驚くほどに完備された両脇の治水システムが巡り、ドゥシャラという彼らの最高神を祀る祠(ほこら)や壁画がところどころに現れる。
ぺトラの中でも秀逸のクライマックスは、宝物殿を意味する「エル・カズネ」だろう。少し薄暗い「裂け目道」を行けば、ナバティアの聖なる殿堂が徐々に近づいて来る。もちろんそのことを熟知してるガイドはとても素敵な演出を試みる。
「では皆さん。目を閉じてください。私の肩をつかんで列になって、ゆっくりゆっくり歩いてください。決して、前を見てはいけません」
指示に従ったドキドキの「電車リレー」の一行が、15の歩みを進めたところで、「はい、どうぞご覧ください!」と、彼は満面の笑みで皆の顔を上げる許可を出す。そこに広がっていたのは、薄闇の此岸から垣間見える、朝のまばゆい光に燦然と照らされた彼岸のエル・カズネ。お客様から湧き上がる歓声。時がまるで一瞬止まったかのように、光と影のコントラストに茫然と身が引き込まれ、この場が宿す変わらぬ美しさが心に沁みる。
この地の魅力は、観光地だけではない。何よりも人々が優しく、ユーモアに溢れている。同時に皆様、激しく好奇心が旺盛で、私たちが日本人の一団であると見破られてしまえば、口々に「野蛮!野蛮!」とまくしたてて来る。そこに悪気はない。そう、「ヤバン」とはアラビア語で「日本」のこと。当然、それに対してはこちらから対抗する武器もある。覚えるのは簡単。「あんた、あほや」とつぶやくのです。日本では、喧嘩のゴングを鳴らすかのようなこの言葉も、アラビア語では「アナタ、トモダチ」を意味する友好の旗印。
皆様も、異界の大地シリア・ヨルダンで、どうぞすばらしき旅を。(中山)
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