分離壁の希望とアネモネの花(イスラエル)
先日イスラエルの添乗より戻って参りました。日本の四国程度という比較的小さな国土に旧約聖書や新約聖書の世界が息つく暇なく展開し、今回は6日間という短い期間ではありましたが、イスラエルの魅力を十分に味わうことができた旅となりました。
何かと少し物騒なイメージが先行するイスラエルですが、ツアーでご案内する地域は平和そのもの。日本にいるとその国の一番悪いニュースのみが流れてきて、いつの間にか「その国全体がそうなんだ」と思ってしまいがちになりますが、実は変わらず地元の人々は暮らし、生活を営んでいるわけで、そのあまりの「普通の日常」に、少し構えていたお客様方も驚かれたようです。
さて、今回のツアーの楽しみの一つは急遽訪れることが可能となったベツレヘムの生誕教会です。イエスが生まれたという、宗教上とても重要な教会なのですが、これまで弊社では安全上の利用から慎重を期してパレスチナ自治区内にあるベツレヘムへのご案内は控えてきました。けれども、今回情勢がずんぶん落ち着き、外務省による危険情報も引き下げられたことにより、ベツレヘムへのご案内が実現しました。
当然、訪れてみればヨルダン川西岸の自治区内は平和そのもの。世界中からの観光客が、ベツレヘムの生誕教会を訪れ、イエス・キリストが生まれたという聖なる場所を一目みようと教会内は行列ができているほどでした。
日本人には旅行先としてはなじみの薄い国イスラエルも、キリスト教徒の多いヨーロッパの国々ではとても人気のある渡航先だそうです。そして今回のツアー中では韓国や中国に加え、タイから来たというアジアからの団体さんにも多く出会いました。
さて、そんな世界中から観光客を集めるベツレヘムを訪れる際、唯一緊張を覚える場所があります。それはイスラエルの中にあるパレスチナ自治区を囲む分離壁を通過する時です。日本のニュースで見るコンクリートでできたあの壁です。
実際は、パレスチナ自治区に住む人々が毎日何千人もイスラエル側に通勤で通るようで、物々しい外観をしているのですが、通過を待っている私たちの側をたくさんの車が通り抜けて行きました。
そしてパレスチナ自治区からイスラエル側へ戻る時に、あるお客様が分離壁いっぱいに描かれた巨大な絵を見つけられました。それは手のひらの絵で、指先にはそれぞれイスラム教、キリスト教、ユダヤ教、仏教など異なる宗教が描かれ、そして中央に「peace(平和)」とありました。
ふと、数日前に訪れたガリラヤ湖畔にある山上の垂訓教会で見たアネモネの花を思いました。そこガリラヤ湖周辺は、地中海性から亜熱帯性気候に属し、冬でもとても温暖です。「幸いなるかな〜」で有名なイエスの「山上の垂訓」が行われたというこの教会裏には、ガリラヤ湖が見渡せる小道が伸び、そこには季節はずれのアネモネの真っ赤な花が数輪、ポツリ、ポツリと咲いていました。
アネモネの花言葉は「期待、儚い希望」。
いつの日か、この分離壁に描かれた絵が希求するような、全ての宗教が共存するような世界が訪れればいいなぁと心から思いました。だって、そう願う人々がここパレスチナ自治区やイスラエルに住んでいるのですから。
こんな事実を知ることができることも、こんなふうに思うことができることも、やはり実際に訪れてみることで得られるものであり、旅の醍醐味なのかもしれません。(田村)
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