2010年2月 3日 (水)

ブータンの懐深く、幸福な国に住む人々の実像

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「ブータンの懐深く、ブムタン地方とパロとティンプーの旅」より帰国しました。

ブータンは、国王の独特の政策から「幸せの国」として名高い国ですが、その実感はこの地で過ごせば過ごすほど強まっていきました。

インドと中国の間、ヒマラヤの山々に挟まれたこの地では、どこか流れている時間が違います。首都ティンプー。一国の首都には、信号がありません。おまわりさんが道路の真ん中に立って、なんとまあ、手旗信号で車を整理しています。でもよく見ると、整理するほども車は通っていなかったりします。

子供たちが、次から次へと笑顔でやってきますが、「ワンダラー、ワンダラー」と何かを要求してくる商人スマイルではありません。みんな少し照れながら、「ハロー、ハワユ?」と聞いてくる。「元気だよ。君は?」とたずねると、もう顔を真っ赤にしながら「I'm fine, thank you...」ともぞもぞ言って、ぴゅーっと面前から逃げ出してしまう。まるで、100年前の日本にタイムスリップしたかのような気持ちになります。

ツアーでは主に、ゾンと呼ばれる宗教と政治の複合的なお城やラカンと呼ばれるお寺を訪れます。ですが、ブータンのツアーは単なる観光にはとどまりません。ガイドのツェリンさんの口調にも力がこもります。「お祈りするとき、ご自身のことだけを願うのでは足りません。何かの縁でつながったこのツアーのメンバー、日本の家族のこれからを考えてお祈りしましょう」と、さながら仏の教えのよう。両手両足と額で地面を覆う、五体投地をする敬虔なブータン人たちに囲まれながら、「なんだかこのツアーでは人生の意味まで考えさせられた」というコメントをするお客様もちらほら。

もうひとつの旅の特徴は「絶景」。3000メートル超の峠をいくつも越えるその情景はもちろんのこと、旅のクライマックスであるタクツァン僧院では、皆様深い緑に彩られたブータンの山を登っていきます。時に休み休み、階段を上がったり昇ったりして、辿り着いた岩山の僧院からの絶景は、苦労した分感動もひとしお。その頃には、凍えるほどに寒かった麓がウソみたいに、カラダが温まっています。この冬の季節、僧院近くの滝から流れ落ちる水に、真っ青な空から差し込む光がきらきらと反射していました。

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数多く訪れた神聖なお寺では、日本ではあり得ない不思議なことも起こります。

輪廻の思想が非常に強いチベット仏教系のブータンの寺院には、数多くの高僧の生まれ変わりのお坊さんがいます。ツェリンさんは、寺院ですれ違ったあるお坊さんの特異な佇まいを見抜き、その素性を尋ねます。その相手の年の頃はなんと5歳。伝統衣装のゴの手の裾で口を覆い、自分の吐息が高貴な方にかからないように配慮しながら、きわめておずおずと、聞き取れないくらいの小声でもって。すると、小僧さんは答えます。「いかにも、私は生まれ変わりである」。そうして、顔をもたげるツェリンさんの頭の上に彼はすっと自分の手をのせ、御利益を与えました。5歳にして完全にその澄んだ眼差しは高僧のそれでした。

ブータンは、わずか人口が60万人の国。だから、人と人とのつながり方にはびっくりするほど近いものがあります。たとえば、ツアー名にもある「ブムタン地方」ジャカールのホテルに二連泊した時のこと。夕食の際に、片言の日本語と英語でフレンドリーに話しかけてくるブータン人がいました。お客様を交えて話が盛り上がり、「実際、ブータン人って本当に幸せなんですか?」なんてどんどん国の実像に迫る問いを投げかけていくと、彼はにやりと笑って「実は私、今の与党の設立者なんです」とぽつり。今晩は、国会の議長をさらに東のタシガン地方に連れていこうとお供しているんだとか。

さて、では彼いわく、ブータンはなぜここまで特別な場所であり得たのでしょうか。「ブータンは確かにこのヒマラヤの峻険に囲まれ、歴史的に長い間世界の多くの場所から注目を浴びない場所でした。ですが同じく地政学的な観点から言えば、私たちは中国とインドというタチの悪い大国に挟まれています。かつての隣国シッキム王国はすでにインドになしくずし的に吸収されてしまった。私たちは、自分たちを守るためにも『ブータン人』であり続けなければならなかったのです。」

国語教育を全国に普及させたこと、同時に、罰金すら課しながら全国民に伝統衣装「ゴ」「キラ」の着用を義務化したこと。すべては「ブータン人」というアイデンティティを確立し、護るためでした。彼のフィールドは、政治の最前線。国王と共に働き「幸福な国、ブータン」を下支えする、真剣な国を思う眼差しが垣間見えた瞬間でした。

この国では、国王の宮殿が買い物の市場から歩いて10分のところにあって、政治のことを「直接」王様に相談できるホットラインがあって、国を治める議員がそのあたりに当たり前のようにいて。人がとにかく近くにいます。でもそれは何も物理的なことだけでなく、心情的にも、助け合い徳を積むことが深くカラダに刻まれたこの国ならではのものではと思いました。

「幸福な国、ブータン」そんなキャッチコピーの、さらにその先の人々の暮らしの実像に迫りたい皆様、ユーラシア旅行社のツアーで刺激的な体験をお楽しみください。(中山慶)

ブータンへのツアーはこちらから

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