2010年11月11日 (木)

エネルギーの源~モロッコ~

 先日『フェズ、マラケシュ、エッサウィラ、憧れのモロッコへ』の旅から帰国しました。
 最近ファッション誌などメディアでモロッコが盛んに取り上げられているのを目にします。肩の出た素敵なドレスをまとったモデルがメディナの一角に立つ写真を見ると、「ここはどこだろう」と思わず首をかしげるほど、おしゃれな印象のものばかりです。

Essouirapaint

 今回訪れたフェズやマラケシュ、エッサウィラでも、ヨーロッパの方が作った新しいショップやおしゃれなレストラン、小さな宿やスパが増えていて、雑誌の内容はあながち嘘ではないのだなと思ったほどでした。
 モロッコは、その昔国土回復運動の影響でスペインから移住してきたイスラム教徒を受け入れ、モロッコとアンダルシアの芸術を融合させて独特の建築様式や工芸を生み出し発展させてきました。また、この地に古くから暮らす原住民ベルベル人たちの固有のデザインや生活の智慧を取り入れて、さらにその芸術性を高めてきました。今でも伝統を受け継ぐ職人たちを、メディナで見かけることができます。彼らの技術は、代々父から子へと受け継がれていて、土産物が並ぶメディナから少し脇道に入ると、1坪あるかないかの店の中で黙々と仕事をする姿を見ることができます。仕立て屋、金物屋、糸屋、刺繍屋、革の職人街、一角ごとに同じ技術を競う職人の店が立ち並んでいて、ときどき隣同士談笑したりミントティーで一服しています。表通りのような猥雑な空気はなく、観光客に媚びるようなこともなく、ただ淡々と彼らが彼らの時間を送っている姿は、新鮮に目に映りました。日本でも、江戸時代の街には、同じような職人街がいくつもあったと聞きます。傘なら傘だけを扱う店がいくつか並び、箸ならば箸屋、履物ならば履物屋の一角が…。人相も国も違うけれども、江戸も昔こんな感じだったのかもしれない。規格品に慣れきった私でさえも、自分だけに馴染む品々を探す時間の豊かさを感じました。
 メディナのほとんどは、今でも人々が暮らす生活の場です。店の軒先で売り物のラグで昼寝をする猫。道に座り込んで話し込む老人たち。猫や自転車という小さな場面の一つ一つにこんなに引き付けられるのは、そのすべてがこの地にしっかりつながっている気がして、そこから立ち上る固有のエネルギーが皮膚に響くのかもしれません。

 今回訪れたエッサウィラは、とりわけそんな感覚がありました。フェズやマラケシュのような大きなメディナと違い、半日もあればぐるりと自分の足で見て回ることができます。大西洋に面した街にはかもめが飛び交い、街中で見かける猫たちも他の街より存在感があるような。若者の間ではヒッピー風のファッションが流行しているらしく、これがまた彼らによく似合っていました。昼下がりに遠く波音を聞きながら甘すぎるミントティーを飲んでいると、だんだん頭はからっぽになり、自分のからだがこの場所に馴染んで行く気がします。少しずつ風が冷たくなってくると、自然と猫たちの姿が少なくなり、夕方には夜を知らせるようにかもめが一際盛んに飛び交っていました。この街では時計などなくても時の流れをしっかりと感じることができます。
 毎年夏にはギナワという南部アフリカ発祥の弦楽器の祭典が開かれます。かつて奴隷貿易の中心地のひとつだったエッサウィラに奴隷が持ち込んだ音楽は、今では世界中に伝わり、毎年各国ミュージシャンとのセッションの場になっています。スカーフで髪を覆ったムスリム女性が頭をシェイクしながら聞き入る映像を見たとき、いつかその場を体感したいと強く思いました。
 海、山、砂漠が揃う豊かな地理と、アフリカ人、アラブ人、ベルベル人、ヨーロッパ人から成る多様な歴史背景を持つモロッコ。そこからもたらされたものは、分別という概念ではなく、そのままを受け入れて、咀嚼する感覚なのかもしれません。それは言葉ほど容易なはずはなく、日々を生きる強かなエネルギーにつながっている気がしました。

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 新しくできたお店は、おしゃれな店員ときれいにディスプレイされた商品がとても素敵です。でもなぜか足が向くのは、その都度自分剥き出しで向き合わざるを得ないふてぶてしいモロッコ人の店だったりします。ごちゃっとした入り口。店に入ると見透かされるような視線を感じる緊張感。値札のない品々の値段交渉。こちらに迷いや逡巡があるとすぐに見抜かれます。でも一度打ち解けると、お客であろうが先ほどまでの態度が嘘のように受け入れてくれたりします。表面的な駆け引きではなくて、動物的な感応。そんなやりとりの後店を出ると、全身を血が巡り、いつもより視界がクリアになる感覚があります。向き合うということは、こんなにエネルギッシュなことだったのかとハッとするときもあります。彼らにとっての日常は、私にとっての非日常で、まったく予想もしないところからよいしょっとこちらに入ってくる彼らに呆然としながらも、わくわくしてしまうのです。そんなわけで、きっと今度モロッコを訪れても、おしゃれなお店やレストランを横目に、わざわざやりとりに時間のかかる地元のお店に足を向けてしまうのだと思います。(菊池)

モロッコのツアーはこちらです。

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