西アフリカ 過去~現在~未来
先日、「ガーナ、トーゴ、ベナン周遊と伝統の祭典」より帰国致しました。
西アフリカといえば、まだまだ発展途上の国々といったイメージが強く残っているかと思いますが、現在では、ガーナの首都アクラをはじめ、高層ビルも立ち並ぶほど発展しています。西アフリカ諸国は建国50数年という、まだまだ若い国々が多いですが、この国には忘れてはならない歴史が残っています。
多くの方がご存知の通り、西アフリカはかつて黄金海岸や象牙海岸といった名前で呼ばれていた地域がありました。その名の通り、それぞれからヨーロッパ諸国が象牙や黄金を運び出したことが由来となっています。そして、16世紀~19世紀にかけて、この地を舞台に大規模な交易が行われました。その交易とは奴隷貿易です。
この度のツアーでも、奴隷貿易に関係がある地を数多く訪れました。その中ではご紹介させて頂くのが、ギニア湾に面する、現在ではまるでリゾート地のような雰囲気があるケープコーストとエルミナです。
かつて、このギニア沿岸には数百もの要塞が築かれていました。その多くが遠いヨーロッパで繰り広げられる争いに巻き込まれ、主が度々変わりながらも、約400年間にも及ぶ三角貿易の舞台となりました。現在では、その数百全ての要塞は残っていませんが、現存する多くは世界遺産にも登録されています。
三角貿易の中心とされたのが奴隷。当時、西アフリカ諸国でも勢力争いがあり、ヨーロッパの新型兵器の為に、他国を攻め、他国の兵士を奴隷としてヨーロッパに売り、その代金として受け取った武器で、更なる侵略を続ける。そんな状況が西アフリカありました。売られた奴隷は数百キロもの行程を歩かされ、ギニア沿岸にたどり着きます。そして、船に乗せられるまで収容されたのが要塞です。
その要塞のひとつケープコースト要塞では、かつて男性奴隷が収容された部屋を訪れます。部屋の第一印象は暗い、ノート大程度の明り取りは設けられているものの、小学校の教室の半分程度を照らすには心もとありません。この小さな部屋に、最大で300人も収容されていた事実を聞かされたとき、我々の誰もが驚きを隠せませんでした。更に『商品』として扱われていた奴隷たちが、栄養失調で倒れてしまってはならないので、奴隷商人たちはある程度の食事は与えていました。しかし、部屋には一切の洗面所はありません。その結果、この収容所では人間のひざあたりまでが排泄物によって埋まっていたそうです。その部屋から奴隷たちが旅立つのは、青い海。沖には大きな船が待機しています。自分たちの部屋から通路を歩き、船着場へのたどり着くまでには、大きな扉があります。『DOOR OF NO RETURN』と上部に書かれているその扉は、一度越えると、二度戻ってこれない扉、つまりは長い航海、そして遠くの地での厳しい奴隷生活への第一歩でした。
約400年間で、西アフリカから二度と戻ってこれない航路へと旅立った黒人奴隷たちは、推定で2000万人とも言われています。この人数は、あくまでも貿易会社が大陸にたどり着いた人数を記録していたものとされているので、実際は数倍にも及ぶと考えられています。
この数千万人にも及ぶ黒人奴隷たちが、その後、どのような末路を辿ったかは想像の範疇を出ませんし、また各地に残っている記録も一体どこまで信憑性があるものかは分かりません。彼らは悲壮に満ちていたのか、それともそんな状況でも何とか希望を見出そうとしていたのか…。
現在では西アフリカから大陸へ渡っていた黒人奴隷の子孫が中南米各地で生活をしています。数年前、そんな彼らの子孫がこのケープコースト要塞を訪れたといいます。その際、海から戻ってきた彼らがくぐった扉は、かつて『DOOR OF NO RETURN』と呼ばれた扉。黒人奴隷本人たちが再びくぐることは叶いませんでしたが、子孫たちが再び戻ってきたことから、『DOOR OF NO RETURN』の反対側の入り口には『DOOR OF RETURN』と刻まれています。彼らは数百年という時代と、代を越えて、この西アフリカに戻ってくることができました。現在、要塞には子孫たちが祖先に手向けた花がところ狭しと飾られています。
今回ケープコースト要塞を案内してくれた30代のガイドさんが、最後に我々にこう言いました。「私は奴隷貿易が行われていた当時を知らない。しかし、絶対に忘れてならないことだということは分かる。我々を商品として扱ったヨーロッパ人にも責任があるが、本当の加害者は仲間を売った我々黒人自身だ。それをみんなに伝え続けるため、忘れさせないために、私はガイドになりました。」と。
まだまだ発展を遂げる西アフリカ。重い過去を捨て去るのではなく、一緒に歩んでいく。これからもこうあり続けてほしいと、心から思った。(吉村)
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