「死の海」、タクラマカン砂漠に生きる
先日、「シルクロード列車、天山越えとタクラマカン砂漠縦断」より帰国致しました。
旅の始点は新疆ウィグル自治区の区都ウルムチ。ウルムチからは一気に中国大陸最西の街カシュガルまで飛び、ホータンやニヤなど西域南道のオアシス都市を経てタクラマカン砂漠を縦断。その後は天山南路のクチャやトルファンを経てウルムチへ再び戻っていきます。この辺り一帯はかつてのシルクロードの面影を最もよく残す「オアシス路」と呼ばれています。人の絶えることのない活気のあるバザールに足を踏み入れ、お茶を飲みながら談笑する少数民族と話をしていると、かつて栄えたオアシス都市にタイムスリップしたような気分になります。
今回は、ツアーのタイトルにもなっており、ハイライトであるタクラマカン砂漠についてお話したいと思います。
タクラマカン、という言葉はウィグル語で「一度入ったら出られない」という意味を持ちます。かつて道路などなかった頃は、力尽きた人の骨を目印に進んだとも言われる程の過酷な土地でした。19世紀末から起こった探検ブームでは、スウェーデンの探検家スウェン・ヘディンが隊員の殆どを失い、彼によって「死の海」という名が付けられました。
今でこそ油田の開発と建設が進み、物資運搬用として522kmもの長さを誇る「タリム砂漠公路」が砂漠を南北に貫き、もはや「死の海」というイメージは湧かなくなってしまいましたが、人が生きるには過酷すぎる環境である事には変わりありません。
しかし、そんなタクラマカン砂漠に暮らしている人々がいます。それが、砂漠公路の中に4kmおきに、合計108ヶ所存在する「ポンプ室」の管理人達です。
タクラマカン砂漠は移動性の砂漠。道路が完成しても、いかにして流砂に埋もれないようにするかという課題が出てきます。そこで発案されたのが、道路の両脇に植物を栽培し、砂止めとして活用するというものでした。技術者たちはアルカリ性土壌に強いタマリクスやスナナツメなどの植物の栽培に成功し、現在ではしっかり砂止めとして活躍してくれています。
ポンプ室とは、地下水をモーターで汲み上げて、これらの植物を灌漑する為の施設。砂漠に降り立ち、道路両脇の植物の根元を見ると細いパイプが伸びているのがわかります。このパイプから汲み上げられた地下水と肥料が撒かれることで、植物の生育と保全がなされているのです。各ポンプ室は3月から11月までの間、夫婦2人の管理人によって管理されています。
管轄区域の植物が80%に枯れてしまうとお給料が減額されてしまうので、時には次のポンプ室までの4kmを、40度を超える暑さの中自転車で見回りに行かなければなりません。食料は週に二回管理会社から支給されますが、娯楽はラジオのみ、人との会話も少ない生活は決して楽なものではないでしょう。しかし、そんな彼らのおかげで快適な道路が整備され、今日も私たちは安全にタクラマカン砂漠を縦断する事ができるのです。(冨永)
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