バスク地方、一味違う、スペイン・フランス
先日、スペイン・フランスのバスク地方を巡る12日間のツアーより帰国しました。北スペインからフランスへ国境を越え、南フランスのバスク地方の村や町を周って、北スペインバスクを周遊するというちょっとマニアックなコースです。スペイン・フランスにまたがるこの地域には、バスク人という人々が住んでいるのですが、このバスク人、非常に変わった人々なのです。まず、話されている言葉。バスク語という言葉なのですが、スペイン語ともフランス語とも似ても似つかない不思議な言葉です。ヨーロッパ系のどの言葉とも系統が違うのだそう。じゃあどこの言葉と同じ系統の言葉なの?となるのですが、なんとまだわかっていないのです。言語系統不明。そんな言葉を話すバスク人、ヨーロッパの人々のなかでも最も古い時代から生きているという説もあるほど。このような独特な人々が、言葉も風習も違う、スペイン人とフランス人の間に挟まれて、時には支配され、迫害されながらも(ゲルニカの爆撃は有名ですね)、現代に生き残ってきたわけです。
彼らの辿ってきた歴史は非常に複雑なのですが、現在、バスク地方の街々は非常にユニークな発展をとげていて、面白いです。近年特に有名なのは、サン・セバスチャンという、ビスケー湾沿岸の街。世界中から注目されるこの街、一体何故有名になったのでしょう。特に大きな観光の目玉もない、人口約20万前後の小さな街なのですが、なんとこの街は、世界一の美食の街として注目を集めているのです。人口一人当たりのミシュランの星の数、という統計があるのですが、その星の数がなんと世界で断トツの1位。英国の「レストラン誌」による世界のベストレストランのトップ10のうち、なんと2軒がこのスペインの片田舎の小さな街にあるのです。そして、星付きレストランだけでなく、街にたくさん並ぶバルや小料理屋のレベルも非常に高い!どこに行っても大体すごく美味しい!
一体、なぜ、そんなことになったのか・・・簡単にいうと、この街に住んでいた若者たちが、古くから根付く徒弟制度を捨て、師の技を見て学ぶのではなく、互いに良いことや料理の秘訣どんどんを教え合い、厨房とは別に料理研究所なる施設を設け、そこで研究に研究を重ね、美食クラブという女人禁制の料理クラブで更に磨きをかけ・・・町全体の料理のレベルを上げていったということなのだそう。他にもたくさん理由はあるようです。ビスケー湾で取れる新鮮な魚介類だったり、フランスの美食、ヌーベル・キュイジーヌの影響を受けやすい場所柄だったり。ともあれ、この街ではヌエバ・コッシーナと呼ばれる新しい料理がどんどん発展してゆきます。マドリッドで生まれ、この街で発展を遂げている分子料理という分野では、食べ物の状態を元素記号で書き記します。気体はOで液体はLで、それと足すのか、混ぜ合わせるのか…なんだか頭が痛くなりそうな話ですが、実際に、料理を科学分野のようにとらえてまるで科学実験のように組み合わせてみたり、世界各地に飛び散ったサン・セバスティアンのシェフが、世界各国の美味しい料理を学んで、それを自分たちの料理の中に取り入れてみたり。とにかく、現代の料理に革命をもたらした街なのです!
さて、美食云々と言いましたが、大衆食堂やバルの料理もおいしいサン・セバスチャン。小さなバルがたっくさんあります。それがまあ、美味しい美味しい。それぞれの店に名物ピンチョ(串にささったおつまみ)があり、ここもあそこもと歩き回っていると満腹なのも忘れて食べ歩いてしまいます。美味しいピンチョに合うのが、バスク地方の地ワイン、チャコリ。微発泡性の白ワインで、バルにいってチャコリくださいというと、お店の人が高い所から細い滝のようにグラスにチャコリを打ちつけてついでくれます。これがまあ、さっぱりして美味しいこと!アルコールに弱い方にはシードルというリンゴ酒もお勧めです。酔っ払い、食べ過ぎ注意。でもほろ酔いでビスケー湾沿岸を歩くのも心地よい!美食を観光資源にしよう!ということで見事世界中に注目される美食都市となったサン・セバスティアン。目のつけどころが違いますね。
そんなサン・セバスティアン以外にも、目の付け所が違う!と驚かされる街が、まだバスク地方にはあるのです。その名もビルバオ。この街はバスク地方の玄関口で、大きな国際空港があります。私たちの旅のスタート地点もここからでした。ここからぐるっとフランスの方まで行き、最後にまたビルバオに戻ってきて観光をしたのですが、ここもまた、非常にユニークな町なんです。20世紀初頭、鉄鋼業で栄えていたこの街は深刻な環境汚染に悩まされていました。川は汚れ、街も薄汚く・・・そんな状況を打開するために街が打ち出した方法は、なんと、現代アートの巨大な美術館を建てる!というもの。バスク州政府が、ニューヨークのグッゲンハイム財団に、この街に美術館を建てることを提案し、フランク・O・ゲーリーという世界的に有名な建築家が設計を担当し、ギラギラでぐにゃぐにゃの建物を建てました。
この美術館を建ててから、町にはたくさんの人がやってきて、観光業が栄え、荒廃した街の整備をすることができ、そして更に、現代アートのモニュメントや、近代的なビルディングを建てていく余裕ができてきたのです。ちなみに、グッゲンハイム・ビルバオ美術館の設計者の選出コンペには日本人建築家の磯崎新も参加しています。実際にグッゲンハイム美術館にも入ってきました。中にも不思議な展示物がたくさん。作品の中に見学者が入っていって、その中で見学者が持った感情が作品のコンセプト・・・なんて面白いものもあります。入口の犬のモニュメント、パピーもお花満開でとても可愛らしかったです。
そしてこのビルバオ、アートだけではなく美食レベルの高い街です。この街にも美味しいバルや三ツ星レストランがあります。今回はツアーでアスルメンディという三ツ星レストランに行きました。
まさにこのツアーの目玉なのですが、非常に面白いレストランでした。パッと見、どうやって食べればいいのか迷うような料理がどんどん出てくるのですが、ちゃんと店員さんが食べ方を教えてくれます。約4時間近く、次々と出てくる不思議な料理に舌鼓。バスク地方が最先端を走る、ヌエバ・コッシーナ(新しい料理)を楽しみました。(留置)
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