2016年11月 8日 (火)

多様性の中の統一(インドネシアの宗教観に触れる旅)

先日、ユーラシア旅行社の「芸術の島バリと歴史遺産の宝庫ジャワ島 7日間」のツアーより帰国致しました。
今回の訪問国インドネシアでは、全国民の約9割弱、人口にすると約2億人がイスラム教を信仰しています。イスラム教と言えば、中近東や北アフリカのアラブ人やペルシア人というイメージがありますが、実はインドネシアこそが世界で最も多くのイスラム教徒を抱える国なのであります。ただしインドネシア政府は宗教の自由を認めているので、イスラム国家(イスラム教を国教とする国)ではなく、残りの約1割強の国民は、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教、儒教などを信仰しています。その背景にはインドネシアが独立時に掲げた国是「多様性の中の統一」があります。多民族国家であるインドネシアでは宗教に限らず、それぞれの多様な環境や文化を尊重しつつ、みんなで団結するという心がけが実を結び、「民主主義とイスラム教の共生」が可能であることを全世界に示し、とりわけインドネシアを訪問したアメリカのオバマ大統領は「世界にとって理想的な民主主義国家のモデルだ」と礼賛したとされています。

プランバナン

まずジャワ島を訪れてみると、中近東のイスラム教国と同様に街中にはモスクが点在し、1日5回の礼拝の前にはアザーンが流れます。そして全員ではないですが、「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフで髪を覆った女性も多く見受けられました。
今回の観光箇所はイスラム教関連の史跡はなく、世界最大の仏教遺跡であるボロブドゥール遺跡と、ヒンドゥー教のプランバナン遺跡群でした。インドネシアにイスラム教が入ってきたのは13世紀のことでしたが、ボロブドゥールは8世紀、プランバナンが9世紀とイスラム教より前の時代に建てられたものです。ともに世界文化遺産に登録されているので、国内外からの多くの観光客が訪れていました。中でも目についたのが、先述のヒジャブをかぶった地元のイスラム教徒の女性です。私が見た限りでは、彼女たちが仏像やヒンドゥー教の神々の像などを真剣なまなざしで眺め、そしてそれらの遺跡をバックに楽しそうに写真を撮っている様子は、他宗教ではあっても、古代から自国に根付いた世界に誇れる遺跡だというリスペクトの気持ちがひしひしと伝わってきました。

ボロブドゥール

続いてジャワ島へ。こちらは島民の約9割がヒンドゥー教徒になります。ヒンドゥー教と言えば、真っ先に思い浮かべるのは「カースト制度」ですが、発祥国インドでは、とくに農村部でまだ根強く残っているのが現状です。しかしインドネシアではほとんど形骸化しており、身分に関係なく皆平等に暮らしています。ちなみに今回のジャワ島のガイドさんは「実は、私は一番下のカーストです」と、特に隠すこともなく(むしろ誇らしげに)言っておりました。
バリ島はインドネシアが誇る世界有数のリゾート地で、世界各国から多くの観光客が訪れますが、意外なことに、逆にバリ島民は海外どころか島を出たことがない人が大勢います。その理由が、年に数回の祭事が行われ、莫大な時間とエネルギーを費やすからです。今回も11世紀頃の古代遺跡「ゴアガジャ」にて、信者さんたちが祭事のためのお供え物作りにいそしむ様子を見ることができました。その様子を見て、島から一歩も外に出なくても人生を謳歌しており、かえってうらやましく感じました。

ゴアガジャ

今回ジャワ島にて他宗教を尊重するイスラム教徒や、カースト制度にとらわれず皆平等に暮らし、年に数回の祭事に人生を謳歌するバリ島のヒンドゥー教徒を見て、宗教とは争うことではなく、自身の人生を充実させるための重要な心のよりどころであるかを改めて理解したような気がします。(斉藤信)

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