ヴェルネと植村直己の続き
1964年にフランスのモルジンヌのスキー場で遭遇(前回記事参照)したジャン・ヴェルネと植村直己の二氏は、その後別々の道を歩む。ヴェルネ氏は、地元の様々な団体の幹部を務めながら、自身のブランドであった「VUARNET(ヴェルネ)」をささやかに経営していた。そのヴェルネ氏に転機が訪れたのが1988年。少しづつではあるが、確実に成長していたVUARNETブランドの積極的な展開に身を投じる為に、ヴェルネは他の一切の仕事を辞め、VUARNETに専念した。そしてスキーさながらにビジネスの手腕も確かな物であったのだろう。VUARNETはスキーウェアの枠を超え、時計、サングラス、香水などで確たる地位を築き、欧米を始め、日本でもその「VUARNET」の名を冠した商品が百貨店などの棚を飾る。
一方、1964年に苦節を経てヴェルネのスキー場で職を得た植村直己は、
この場所を基点にヨーロッパ最高峰のモンブラン、アフリカ最高峰のキリマンジャロ、南米最高峰のアコンカグアを全て単独で登頂し、登山家としての名声を築いた。その後エベレスト、マッキンリーも登頂し、初めて世界五大陸最高峰を全て制覇した登山家としてその名前は世界的に知られるようになった。その後も北極や南極に活躍の舞台を移し、飛ぶ鳥を落とす勢いであった植村直己だが、1984年の2月、アラスカのマッキンリー山中で亡くなった。
マッキンリー(地元ではデナリ)の標高は、海抜6,194m。周りを高い山に囲まれ、麓もそれなりの標高が既にあるヒマラヤ辺りとは異なり、平野に突然姿を現すこの山はその海抜以上に登山が厳しい山だそうだ。また、植村直己が制覇した他の大陸の最高峰は比較的安定した気候の国に位置する山が多かったが、マッキンリーが位置するアラスカは北方が北極圏に含まれるぐらい冬には寒い場所である。今日では、麓の平原一帯がデナリ国立公園となっており、野生の熊やマッキンリーの姿を拝もうと、世界中から多くの人が訪れている。特に8月下旬から9月中旬にかけては、一足早い紅葉の時期も訪れるので、もしアラスカのツアーに行くなら一つのお勧めの時期です。(ちなみに植村氏が没した2月は到底観光客が普通に観光できる季節ではない)
フランスのローヌ・アルプ地方の小さなスキー場で出会ったジャン・ヴェルネと植村直己の二人は、その後それぞれの道で世界に羽ばたいた。果たして植村がヴェルネのサングラスをしていたのか、或いは植村の活躍とその死がヴェルネ氏にとってビジネスの世界に本腰を入れる契機になったかどうかは分からない。しかし、偉人達の足跡を辿ると、こういう場面に出会う事もたまにあるのだ。類は友を呼ぶ、そんな言葉をぽつりとつぶやきながら、小川町のスポーツ店で手に取ったヴェルネのサングラスをそっと元に戻した。ヴェルネ氏が築き上げた高級ブランドに私の懐は追いつかない・・・。
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