ミトラ教とサンクレメンテ教会(ローマ)~その2~
昨日の記事の続きから
さて、安からぬ入場券を買って、サンクレメンテ教会の地下へ通じる階段を下りると、驚くような広い空間に出る。この空間は、紀元後4世紀頃に建てられた初代サンクレメンテ教会の跡なのだ。ところどころにフレスコの断片が残っていて興味深い。この教会は、11世紀にノルマン人達がローマを襲撃した時に破壊された。その後にこの遺構の真上に現存するサンクレメンテ教会が建てられたのである。地下は観光客も少なく、静かな不思議な空間である。ところどころから不思議な水が流れる音がする。
しかし、サンクレメンテ教会のすごいところは、この下にもう一層空間があるのだ。その層へ下りる階段は有料ではないのでご安心を・・・。
地下の二層目に下りる階段の途中から、上で聞こえていた水の音が少しずつ大きくなり始める。階段を下りきってところで地下二層目の部分に入るのだが、その暗さに最初は戸惑うだろう。空間にはいくつか壁が残っているが、建築部の体裁はほとんどとどめていない。そして壁にはところどころ焦げ跡がある。
この焦げ跡は、ネロがキリスト教弾圧の名目にした紀元後64年のローマの大火の焦げ跡だと言われている。この大火は、サンクレメンテ教会からもそう遠くないところにあるチルコ・マッシモ(大競技場)が火元でそこから現在のコロッセオ(当時はまだ建設前)のあたり一帯に大きな被害を及ぼした。ネロはその焼け落ちて更地になった場所に巨大な黄金宮殿(ドムス・アウレア)を築いた。(黄金宮殿については、過去の記事「グロテスク様式」参照)。サンクレメンテ教会は黄金宮殿があった場所のすぐそばに位置するので、被害の跡が残っていてもおかしくはない。
その焦げ跡の壁を巡ると、不思議な水の音の源である水溝がところどころ姿を現す。この水溝は、古代ローマの下水道の跡というからすごい。そして、この地下ニ層目の一番奥まで行くと、暗い空間の中で石の祠のような物がライトアップされている。これがミトラ教の主神ミトラの為の祭壇だ。昨日触れたようにミトラ教は基本的にインスラと呼ばれる地下の密室で儀式を行っていた。地中深く潜っただけあって(あと安からぬ入場料も支払って)、なおさらこの空間が神秘的であろう。地中海のミトラ神は牛を屠る姿で描かれる事が多く、この祠も例外でない。
このように三層式になっているサンクレメンテ教会は、ローマの生き証人の一つ。コロッセオからも歩いて5分くらいの位置にあるので、立ち寄ってみても損はないだろう。他の都市であれば、町のハイライトの一つには数えられたかもしれないが、歴史の玉手箱ローマでは、それ程観光客の数も多くない中堅クラスの教会である。だからローマは深い。地下への入場料は安くないと書いたが、確か3ユーロ前後だったと思うので本当はむしろ安いと言えるだろう。もちろん某レストランと違って、ぼったくられる心配もない・・・。
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