2010年5月13日 (木)

カラヴァッジョ「キリストの捕縛」

Photo 松浦先生が同行するカラヴァッジョ・ツアーの出発が迫り、各ツアーの打ち合わせや最終確認で今週は大わらわだ。最終の下見に出かけた社員の資料を元にお客様用配布資料も完成した。ローマで開催中のカラヴァッジョ特別展では計22の作品が見られそうだが、中でも個人的な注目はダブリンのナショナル・ギャラリーからやって来ている「キリストの捕縛」だ。

「キリストの捕縛」は、カラヴァッジョがローマで最も活躍していた時代、1602年に描かれた作品だ。主題は「ユダの接吻」である。

ユダがローマ兵に「自分が接吻する者こそ、キリストである。」と告げ、ローマ兵はユダの接吻を機にキリストを逮捕する場面だ。アッシジのサンフランチェスコ聖堂にあるチマブーエやパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂にあるジョットの同主題のフレスコではユダの接吻を毅然と受け止めるキリストが描かれているが、カラヴァッジョの作品のキリストは脱力感を感じさせる生の人間として描かれている。キリストの左には嘆く福音者の聖ヨハネ、そして右にはユダ、ローマ兵が続き、一番右の頭が露わになっている人物こそカラヴァッジョ自身である。

この「キリストの捕縛」はカラヴァッジョの代表作の一つだが、そのバックグラウンドはカラヴァッジョの全作品の中でも最もいわくつきでもある。カラヴァッジョの作品には行方が知れなくなった作品が少なくないが、長らくこの作品もその一つとしてとうに存在を忘れ去られていた。

消息が消えた理由は、当初カラヴァッジョにこの作品を注文し、保持していたイタリアのマッテイ家の目録上でいつの間にかこの作品の帰属がオランダ人画家ホントホルストにすり替ってしまったからだ。ホントホルストはイタリアに留学し、カラヴァッジョの作品に多大な影響を受けて故郷のユトレヒトでカラヴァッジェスキ(カラヴァッジョの画風を追う者)として活動し、17世紀の後半になるとカラヴァッジョの名声も潰えつつあったので止むを得ない面もあったのかもしれない。

1802年に「キリストの捕縛」はホントホルストの作品としてマッテイ家からニスベトという名のスコットランド貴族に売られ、1920年代までニスベト家の邸宅に飾られていた。その後アイルランドの小児科医に転売され、その小児科医よりダブリンのイエスズ会に寄贈された。1930年代の前半からずっとイエスズ会の修道院の食堂に飾られていたのだ。この頃にはこの作品はホントホルストの作品の複製と認識されるまでに至っていた。しかし、1990年代に入ると、異変が起き始めた・・・。

この後の物語は非常にドラマチックだ。ジョナサン・ハーによるノン・フィクション小説「消えたカラヴァッジョ」に刻々とその物語が綴られている。近年話題を呼んでいるミステリー小説に引けを取らないぐらいの一冊なのでお勧めしたい。アマゾンの書評にも書いてあったが、事実は小説よりも奇なりなのである・・・。

動画「カラヴァッジョの光と影」はこちら

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