【共通テーマデー】もしも私が過去の偉人として生まれ変われたなら
もしも私が過去の偉人として生まれ代われたなら。一見栄光に包まれた過去の偉人に生まれ変わる事はいい事のようだが、歴史書が語らない苦労や努力を経てこその栄光でもあるから、一概に成功している人を選べる訳ではなく、好きという理由だけでも選べない。英雄は得てして寿命が短かったりもする。そう悩んだ末に辿り着いた私の結論は、古代ローマ帝国の二代目皇帝ティベリウスである。
ティベリウスは77歳まで生き、60人以上いたローマの皇帝の中でもアウグストゥス、コンスタンティヌスに次いで3番目に長い23年間の帝位在位を持っているが、それでもその知名度は比較的地味な部類に入るだろう。晩年カプリ島に隠居して院政を敷いていたことから、元老院やローマ市民に忌み嫌われ、彼が死んだ時ローマの元老院と市民は歓喜の渦に包まれたと言う。その数奇な人生をティベリウスに生まれ変わったつもりで辿ってみたい。
(個人的な主観による表現も織り交ぜているので必ずしも史実と一致しない箇所もあると思います。)
(ティベリウス)私はティベリウス。ローマの有力な家系に生まれて英才教育を受け、ローマの権力ピラミッドの階段も順調に上ってきた。ローマで名を上げるには軍功の一つも必要だが、私はゲルマニア(現ドイツなど)において弟ドルーススと共に蛮族(ゲルマン人)撃退した功を始め、将軍としてのキャリアも枚挙に暇を欠かない。愛妻ウィプサニアと円満な家庭も育んでいる。先ごろ子供も生まれ、最近はパパとしてのキャリアもスタートさせた。
そんな輝かしいキャリアを重ねているはずの私だが、どうにも市民の人気がないのが気がかり。残念ながらゲルマニアの戦役で弟ドルーススを亡くしたが、未だ根強い弟の人気と比べ、私は未だ箸にも棒にもかからない。
それでも幸せな家庭があればいいと思っていたが、ある日アウグストゥスに呼び出され、娘ユリアと結婚しろという。正に青天の霹靂だ。愛妻を捨てろというのも無理だし、あのカタブツの娘だけあって、ユリアもお世辞にも結婚したい女性ではない。しかし、私も所詮サラリーマン、じゃなかったローマの上流階級に生きる者、皇帝の意には逆らえず、結局ウィプサニアと離婚し、ユリアと結婚した。
しかし案の定新しい家庭は寒々しく、かつてウィプサニアとの家庭にあった温もりが灯る事はなかった。家に帰っても辛い、けれども皇帝である義父の事を思うと離婚も難しい。ああ、どうすればいいんだ。そこで私は思いついた。困った時は高飛びしよう。町も賑やかでローマのしがらみもない場所、とりあえずロードス島(現ギリシャ)に行こう。
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こうして(?)ティベリウスはロードス島に隠居し、一切の政務から離れた。困ったのはアウグストゥスである。本来なら代わりの者を立てれば良いのだが、右腕であったアグリッパを失っていたアウグストゥスには自身に軍事的才能がない故に、ティベリウスを頼らざるを得なかった。最終的にユリアはローマを追放され、ティベリウスは約8年の隠居の後、ローマに帰還した。
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(ティベリウス)さて、ローマに帰って来た。ようやく軍才のないアウグストゥスも私抜きではゲルマニア遠征をうまく遂行する事が出来ないという事に気づいたようだ。しかしローマに帰って来て驚いたのは、弟ドルーススのカリスマ性をその息子(つまり私の甥)ゲルマニクスが引き継いでいる感がある事だ。市民の支持も熱狂的だが、どうやらアウグストゥスもその熱に冒されているようだ。ゲルマニクスはまだ若いが、私の養子にしろという指令が出た。私は帰って来てアウグストゥスの養子になっている。ローマでは養子になるというのは帝位の後継者になるという事であった。つまり寵愛するゲルマニクスがまだ若い為に一時的に私に帝位を譲るつもりなのだ。ふ~ん。
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共和制との争いに身を費やし、死を迎えたユリウス・カエサルの生き様を見て育ったアウグストゥスは、生涯をかけて巧みに表立たないように帝政の礎を築いていった。しかし唯一苦しんだのが軍才無き故のローマ帝国の国境策定であった。特に懸念となっていたゲルマニアに関しては、従来ライン川(ローマはラインの西側)を国境に定めていたのをエルベ川まで伸ばそうというスローガンを打ち出した。ティベリウスは自身ゲルマニアで戦った経験からその困難さをよく知っていた。しかし、アウグストゥスはその直後に亡くなり、ティベリウスはその有り難くないスローガンを引き継いで帝位に就くことになった。ただでさえ市民、元老院、軍のいずれにもさして人気がなかったティベリウスはあっさりスローガンを取り下げようなら、あっさり暗殺される可能性が高かった。
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(ティベリウス)ようやく私も皇帝に就いたのは良いが、困ったのがゲルマニアをどうするかだ。とりあえずやってみるが、万が一大敗を喫しようものならその責任も私に被されるだろうし、かと言って引き下げる事も出来ない。しょうがないからゲルマニクスに当たってもらうか。あまり大きな声では言えないが、危険な戦役で仮にゲルマニクスが死んでくれたとしても、それはそれで良いのかもしれない。
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ティベリウスが憂慮したゲルマニア遠征は数度に渡ってゲルマニクスを総大将にして展開されたが、案の定一進一退の攻防が続いて大きな戦果は得られなかった。しかし、ゲルマニクスが小さな戦果を挙げたのを期にローマで凱旋式を開いてその戦果をローマに大きくアピールし、ゲルマニクスを中東に配置転換した。そして市民や元老院の多くが気付かない内に北部の国境を巧みにエルベからラインまで引き下げた。さらに中東に赴任したゲルマニクスはシリアで謎の病死を遂げる事になる。
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(ティベリウス)幸か不幸かゲルマニクスがシリアで亡くなったものの、その死に不審な点が残っている事から放っておくと私の差し金による暗殺説が流布されてしまうだろう。断じて私は指示を出していない。不審なのはゲルマニクスが赴いたシリアの総督ピソである。ゲルマニクスの死の直前に二人の口論が目撃されており、仲が悪かった事は有名だ。動機は十分。私の公正を世に示すためにも、裁判にかけよう。
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裁判にかけられたピソはその結果を待たずして自殺し、一部にティベリウスの関与を疑う者があったものの、この問題はいつしか忘れ去られていった。ティベリウスはその間政治に没頭した。とは言っても公共事業も新法もを派手にやった訳ではなく、ゲルマニアの国境と同じように、アウグストゥスが打ち立てた帝政の方向性を現実的なレベルに修正した。人気取り政策であった「パンとサーカス」をあまりしなかったので人気は低く、その評価が見直されたのは後世に入ってからである。地味で必要な政策を行っているにも関わらず、「パンとサーカス」を求める市民や元老院を見切ったのか、ティベリウスは晩年カプリに隠居する。
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(ティベリウス)もう私はサーカスの元老院の議員よりもサーカスの経営幹部に向いてそうな馬鹿議員達と真面目に向かい合うのに疲れてきた。相変わらずゲルマニクス暗殺を私に帰そうとする輩もいるし、ローマは何かと陰謀が渦巻いていて疲れて来た。どこかに行こう。帝政はだいぶ軌道に乗ってきたので政治はローマにいなくても大丈夫だろう。ローマのセレブ達が通うカンパーニャあたりは逃避先として良いだろう。アウグストゥスが買った沖合いの島(カプリ島)なんか悪くない。島であれば煩わしい付き合いも減るだろう。
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こうしてティベリウスはカプリ島に隠居し、死ぬまでの最後の10年をカプリでごく少数の側近と過ごした。ローマにいない皇帝は市民や元老院の人気は低かった(後のハドリアヌスも証明)が、ティベリウスは冷徹に政治を続けた。最晩年には、側近中の側近で力を持ちつつあったセイヤヌスという部下が私利私欲の為の行動を始めた。ローマにかなりの力を持っていたセイヤヌスをカプリのティベリウスは巧みにを排し、ローマよりも私利私欲に走る(と見なされた)人を粛清した。よくある独裁者の粛清ではなく、ローマの腐敗を憂う故の粛清であった。
紀元後37年、77歳でティベリウスは没する。冒頭で触れたように市民や元老院は熱狂したと言うが、彼の後に続く6人の皇帝はいずれも非業の死を遂げている。
個人的にティベリウスに惹かれるポイントは、地味ながらも徹底して長久の計を講じた事である。同じくローマにほとんど滞在せず、存命中に評価される事はなかったハドリアヌスにも共通して言える事だが、こういう地味な積み重ねが栄光の古代ローマ帝国を支えた事を今日では認められて来ている。様々な「我慢」を強いられたティベリウスに生まれ変わるには、容易ならぬ覚悟では務まらないが、そういう強さを身に付けたいという願望も込めてこの人選にした。多分他の記事と比べてかなりの長さで読み辛い部分もあったかと思うが、最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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