【共通テーマデー】旅に誘われた私の一冊
最近ではテレビ、或いはインターネットかもしれないが、旅に出る動機として本が占める位置は人類の歴史の中でも長い。どれだけの人が歴史を通じてまだ見ぬ風景に身を焦がし、旅へ駆られただろうか。今月のテーマは「旅に誘われた一冊」という事で、私が選んだのはウィリアム・シェイクスピアの「As you like it(以下お気に召すまま)」だ。
お気に召すままは1600年頃に書かれたと言われ、シェイクスピアの喜劇の中でも最も有名な部類の作品だろう。劇中に登場するジェイキーズの台詞はシェイクスピアを読んだ事がない人でも聞いた事があるだろう。
"All the world's a stage
And all the men and women merely players;
They have their exits and their entrances,
And one man in his time plays many parts."
「この世のすべては舞台、
そしてどの男も女も役者に過ぎない、
みんなそれぞれの入口と出口があり、
一人一人が生涯色々な役を演じ行く。」(自己訳の為粗いです。)
という訳でこの台詞は有名だが、旅に駆られるという訳ではない。
イギリスにいた頃、多国籍なクラスの仲間達を誘ってこの劇(の素人に可能な範囲)を実際の森の中で上演しようと誘った。なかなか渋る人もいたし、実際森の中でやるというのは困難もあったが、なんとかまとまり、皆それぞれに練習を重ねて行った。私が取った役は道化師のタッチストーン。ウィットに富んだ台詞と皮肉ぶりが気に入っていた。
そのタッチストーンは宮廷生活を満喫していたが、ロザリンドに無理やり連れ出され、アーデンの森にやってきたのだ。都会生活への未練をぶちまけ、田舎者の羊飼いを馬鹿にするタッチストーンだが、森に入ったところで観念したのか、今でもよく暗記している以下の台詞を言う。
Ay, now am I in Arden; the more fool I;
when I was at home, I was in a better place:
but travellers must be content.
「ああ、私はアーデンにいる、もっと馬鹿な私。
私が家にいたときは、もっといい場所にいた。
しかし、旅人は足る事を知らなければならない。」(自己訳の為粗いです。)
その後皮肉屋のタッチストーンも森の人々、そして同じく宮廷から下って来て森で暮らし始めた元公爵らと交流し、やがて森の生活に皆馴染んで行く。いくつかの恋も生まれるが、その辺りは本編をご覧になって下さい。
この作品は評論家の中でも賛否両論だが、個人的にはお気に入りの作品だ。暮らし慣れて不足のない「日常」から得体の知れない森で見知らぬ人々と交流する「非日常」へ飛び出していく主人公達の姿を「旅」に重ねる事ができる。「旅」先は住みよくないかもしれないが、そこには知らなかった世界と知らない人々との交流があり、その中で登場人物たちが豊かな経験を得ていく。一生を宮廷で暮らしていたらきっと得られなかった経験や体験こそ旅の醍醐味。アーデンにいる私は決してもっと馬鹿ではないだろう・・・。
【共通テーマデー】6つのブログでお届けする「旅に誘われた私の一冊」
〔添乗見聞録編〕
〔倶楽部ユーラシア編〕
〔ぶらり秘境探検隊編〕
〔ろまねすく通信編〕
〔船の旅便り編〕
〔パゴタの国からミンガラバー編〕
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