ナザレの受胎告知教会(イスラエル)
約2,000年前、パレスティナ地方のナザレという村にヨセフとマリアという夫婦が住んでいた。ある日、家で読書する妻のマリアの元を天使ガブリエルが訪れ、貴女はこれから神の子を懐胎する事を告げられる。戸惑うマリア・・・。
この新約聖書にある「受胎告知」の場面は宗教画の主題としても頻繁に取り上げられ、ご存知の方も多いだろう。私の恩師の解釈では、本来中性であるガブリエルが屋内にいる女性のマリアにペネトレート(侵入)する事で男性的なシンボルとして描かれ、主題全体が男女の交わり、引いてはその結果として生まれる子供の誕生を象徴していると繰り返し聞かされた記憶がある。まぁこの説の真偽はさておき、今日はその受胎告知の場所(とされている場所)を紹介したい。
受胎告知の正確な場所は新約聖書のルカ伝とマタイ伝でも場所が異なるが、一般的に採用されているルカ伝のナザレであるといする。また同じナザレの中でもどの辺りであったかカトリックと正教の間で見解が分かれているが、今回の記事では前者に準ずる。
ナザレの受胎告知教会は、マリアが住んでいたとされる洞窟跡の上に建てられている。最初の建物は4世紀頃に出来、間もなくしてキリスト教に改宗して国教と認めたコンスタンティヌス大帝とその母へレナによって拡張された。しかし聖地がイスラム教徒の手に落ちると教会は廃り、一時期十字軍によって新たな教会を建て始めたものの、工事は放棄された。その間も前後にも巡礼者の来訪は続いたが、現存する立派な教会の完成は1969年まで待つ事になる。
教会内部は広い。ナザレの受胎告知教会は、中東でも最も大きい教会なのだ。中に入ると、その広大な礼拝堂の奥に件のマリアの洞窟が残っている。古い時代の柱や囲いに覆われていて厳かな空気が流れる一角だ。果たしてこの地で受胎告知があったかどうかは分からない。ただ、私はこういう事に関しては歴史的事実よりも人々の信仰の方が重要だと思っているので、聖地として敬意を払いたい。どのような宗教であれ、積み重ねられてきた人々の祈りは歴史的物証よりも重いものだ。
さて、聖母マリアの洞窟と並ぶナザレの受胎告知教会でもう一つのみどころが、2階部にあるギャラリー。この2階の壁には、一面に様々な聖母子や受胎のマリアの壁画が飾られている。様々というのは、これらの作品が世界各地から贈られた物だからだ。それぞれの作品に作成元の国の特徴が描かれており、その中には、日本の作品も含まれている。
右の写真が「華の聖母子」と呼ばれる日本の聖母子を描いた作品。作者は昭和に活躍された日本におけるキリスト教美術の先駆けである長谷川路可氏とその弟子達である。周囲には様々な国の作品が並んでいるが、この作品が際立っていると感じてしまうのは身内びいきだろうか。私はキリスト教徒ではないが、とにかくこの場所でこの作品の前に立つと深く穏やかな気持ちに包まれる。これも人々が積み重ねて来た祈りの重みかもしれない・・・。
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