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2009年12月28日 (月)

ここだからいえるホントにあったフォントの話(その3) ノース・グリムストン/セント・ニコラス聖堂(英国)

英国、ノース・ヨークシャー州ヨークから北東に半時ほどの場所にノースグリムストンという小さな村があります。Orth_grimston_st_nicholas ここには12世紀に造られたノルマン・ロマネスクの教会『セント・ニコラス聖堂』があります。緑の木々が茂る村にひっそりと佇んでいる小さな教会なので、初めて訪れる人はなかなか見つけられないでしょう。私も見つけるのに苦労しました。あまりにも木が茂っていて、前を何度か通り過ぎてもその奥にある教会が全然見えなかったので。North_grimston_st_nicholas_entrance

こちらの教会の『フォント』は、教会の歴史よりも古い、12世紀以前のもの。ノースグリムストンという名前から、もともとはノルマン以前、アングロ・サクソン族の農地もしくは開拓部落であったと思われる場所なので、この『フォント』はアングロ・サクソン様式、もしくは初期ノルマン様式であるといわれています。英国版プレロマネスクみたいなものでしょうか。

教会の入口である南側のポーチから中に入ると、扉を開けてすぐの左手に、突然置かれている大きな『フォント』。置かれている、というか既に床と一体化しているといった感じです。写真を見て頂ければわかると思いますが、床の部分の石と台座がどう見てもくっついており、さらに台座と『洗礼盤』部分もくっついているようなので持ち上げて運ぶことはもはや不可能。赤いカーペットも洗礼盤の台座に合わせてラウンドカット。礼拝用の椅子はもちろんあとから造られたものなので、洗礼盤をよけるような不自然な配置に。半端ない存在感です。Orth_grimston_st_nicholas_font

セント・ニコラス聖堂の『フォント』はその素朴な彫刻が特徴です。全体的に彫が浅く、ちょっと稚拙で技術的に未熟な感じがし、なんともいえないほのぼの感をかもし出しています。彫られているのは洗礼盤には珍しい「最後の晩餐」のシーンですが、弟子のポーズがほぼ全員一緒という大胆なデザイン。レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐とこの最後の晩餐が同じシーンだなんて信じられないくらい、弟子それぞれの個性がなく、一体どれがだれなのか、もはや判別は不可能。髪型も表情も見事に同じ。キリストだけは一際大きく、十字の形の光輪を背負っているのでわかるけれども(上半身の堂々たる大きさに対し、クッションの上にちょこんと置かれたキリストの足があまりにも小さくて可愛いのは必見。)あとは、聖人画などで比較的識別がしやすいペテロですらどれなのか。
でも、実はよーく見てみると、あるんです、微妙な違いが。弟子達の左手は胸に当てられており、右手はテーブルに。その右手をじっくり観察すると・・・持っている食器が違う。ナイフのようなものを持っている人もいれば、フォークの人もいる様子。カップに見えるものも・・・。表情も、ちょっとすまし顔で食べている弟子から思い切りほおばっている人まで、微妙な変化が。そして1人だけ実は髪型が若干違う人物が・・・。これはマタイによる福音書によるとみんなよりちょっとお金持ちだったという、ヨハネなのではないかといわれています。お金持ちだからお洒落しているのでしょうか。

そして最後の晩餐といえば気になるのはあの人です。

中世の絵画では1人だけテーブルの反対側にいたり、光輪がなかったり、時には塩の壷を倒したりして目立っているあの人、イスカリオテのユダさんは、この洗礼盤のどこにいるのか・・・。Orth_grimston_st_nicholas_last_supp これはかなり見つけるのは難しい・・・なんといってもみんなポーズまで同じだし。目を凝らして洗礼盤の周りをぐるぐるすること数周目にふと気づく、一人だけ胸に左手を当てずに膝に置いている人物が。キリストの右の隣の隣(キリスト側からすると左)。実は、弟子達は胸に当てている左手に聖書を持っています。1人だけ、持っていない人物、これがユダだといわれているんです。このあまりにも微妙な違いを発見したときの密かなる歓び。これこそが『フォント』を愛するロマネスク・ファンにとっての至福の時。そして気づけば『フォント』の前に1時間近くもしゃがみこんでぐるぐる回っているのです。(宮澤)

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