他人の空似3:アトラス・テラモン・ビバンダム(前編)
今回のタイトルでピンと来てしまう方は、きっとヨーロッパ史の色々な時代を見聞きされてきた方に違いない。
「人像柱」と言われる、人の形をした柱飾りを探すと、ロマネスクにおいては持ち送りなどによく見かけます。
これらを、「アトラス」と呼びますが、アトラスはギリシャ神話に出てくる、世界の空を肩で支える巨人族の仲間で、アフリカのアトラス山や地図帳のアトラス、アトランティックオーシャン(大西洋)などの語源でもあります。
写真は、ギリシャのオリンピアのゼウス神殿の破風レリーフ。真ん中がアトラスです。(前5世紀)
縁の下の力持ち、という言葉はありますが、ロマネスクの持ち送りの力持ちは、例えばイタリア、コモのブロレット(旧政庁舎)はロマネスク・ゴシック様式ですが、ここのアトラスはとてもにこやかでユーモラス(赤矢印)。
隣のゴシック様式の大聖堂のもの(緑矢印)と並べると、ぽっちゃりした体がとってもかわいらしい。
アトラスはゴシックやルネッサンスにも見られますが、バロックやマニエリスモなどでさらに活躍するようになります。
例えばバロックの町、イタリアのジェノヴァはアトラスだらけで、表情やポーズも実に様々です。写真はジェノヴァのピアッツァ・プリンチペ駅。19世紀後半の建築です。
これを見ると、もはや柱というよりも、飾りです。
ポーズもすごく、楽そう。
(何かを支えているというよりも、髪をかきあげている人、という感じ)
さて、話をロマネスクに戻りましょう。
重荷を背負うアトラスのモチーフは、罰を受ける咎人のイメージと重なったのか、ロマネスクの教会でアトラスを探すと、ただの人像柱ではなく、説話的なイメージも登場します。
例えば、南西フランスのオロロン・サントマリーにありますサントマリー教会には、鎖に繋がれたモーロ人(イスラム教徒)が柱を支えさせられています。レコンキスタの前線でもあったピレネー北麓。
教会の入り口に配置した柱には、キリスト教徒勝利への思いが力強く刻まれています。
とにかく、モーロ人のこの苦痛の表情!
もう1つは、イタリアのアルト・アディジェ地方にありますカステラッツ村のサン・ジャコモ教会。
こちらは柱ではなく、壁画を仕切る枠線を支えているのですが、祭壇をはさんで対象的に男女のアトラスが配置されていることから、この女性をアトラスの女性版、もしくはアダムとイブとして解釈する場合もあります。
祭壇周りに彼女達を始め奇想天外な生き物がずらり。
どうしてこんなところにこんな絵を描いたのかは解釈が分かれるところです。
おかめみたいな顔ですが、やっぱり辛そうに支えています。
写真をたくさん掲載しましたが、今日はまだタイトルのうち、アトラスしかお話できませんでした。
後編では残りの2者をご紹介します。
(山岸)
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