聖週間より:捕縛…その時彼は(フランス、イタリア、スイス)
前回ご案内した、キリストの視線を受ける人物…それは後光つきなのに人に刃物を突きつけているこの人です。
そう、捕縛される瞬間に、キリストがユダでも自分を捕らえようとする人々でもなく気にかけていたのは、十二使徒筆頭の聖ペテロです。
キリストを捕らえに多くの人々(大祭司率いる一師団とも群集とも)が詰めかけ、騒然とする中、ペテロは兵士の一人につかみかかりその方耳を切り落としてしまいます。
それを見たキリスト、「剣によって戦うものは、剣によって滅びる・・・」と言ってペテロの行為をたしなめます。
ツィリスのサン・マルティン教会の天井画で、キリストの捕縛のひとつ前のパネルが上の写真です。天井画の各パネルは幾重もの枠線で囲われているのですが、この2点はとてもよく似た線が使われています。
キリストの指差す先には人を傷つけるばかりの剣があるのです。
続いて、フランス、ノアン・ヴィックのサン・マルティン教会の方です。
刃物を振り上げる聖ペテロ。
左手は既に兵士の耳をわしづかみにしています。
兵士を見下ろすペテロの目にためらいはないように見えます。
一方一際小さく書かれた兵士は、無表情にペテロを見上げています。
手に力もなく、もうすっかり観念してしまったのか?という顔です。
人物の重要度によって人の大きさを描き別けているので、なんだか子供が叱られているようにも見えてしまいます。
この教会のフレスコ画は、衣服の襞やダイナミックの人物の動きなど、繊細ながらとても力強いのが印象的です。
ちなみに、先日のキリストと並べるとこう。
身を反らせたキリスト&ユダとペテロとが対称になっているように見えます。
ユダ越しにキリストの視線はしっかりとペテロに注がれています。
最後に、イタリアのサンタンジェロ・イン・フォルミス教会から。
このペテロさんは上の2点と違いかなり怒り心頭なご様子です。
キリストの足元で顔の赤い兵士を押さえ込み、刃物は今まさに耳を切り落とそうとあてがわれています。
耳を切られてはたまらないと、兵士も必死です。
顔が赤いのは、もしかしたら必死のあまり顔に血が上っているのかも?
なんせ、ペテロの腕は兵士の首をぐるっと抱え込み、彼の左耳にナイフを突きつけているのだから。
暴れる兵士はペテロに足で押さえつけられています。
ちょっとどこがなんだか分かりにくい状態なので、補助線を引いてみました。
緑がペテロ、オレンジが兵士です。
もみ合っている様子がお分かりになりますでしょうか?
ちなみに、今回ご紹介した絵は右・左・左でバラバラでしたが、ヨハネの福音書では切り落とされた兵士の耳は具体的に右耳と書かれています。
左耳を選んだ絵はしかし、こちらの方が構図としてしっくりくるなという印象を与えてくれます。
(山岸)
>フランス・ロマネスクの旅はこちら、イタリア・スイスの旅はこちら
| 固定リンク
「国:フランス」カテゴリの記事
- 共通テーマ「一度は行ってみたい世界の絶景」ル・ピュイのサン・ミシェル・デ・ギーユ礼拝堂(フランス)(2014.04.01)
- 【共通テーマデー】緑が美しい風景~ラヴァルダン~(ユーラシア旅行社で行くフランスツアー)(2014.03.04)
- 共通テーマデー:旅先で記憶に残った色彩;フランスの光と影(ユーラシア旅行社のフランスツアー)(2014.01.07)
- キリストの昇天の天使達(ユーラシア旅行社のロマネスクツアー・南西フランスツアー)(2013.10.25)
- 共通テーマデー:私のおすすめ世界遺産(フランスのロマネスク教会)(2013.07.02)
「ロマネスク芸術」カテゴリの記事
- カタルーニャで出会ったぷくぷくマリア様(2017.04.20)
- 北欧ロマネスクの旅を発表しました(2017.03.05)
- ドイツでロマネスク?!(3)ヒルデスハイムの青銅扉(2016.11.04)
- ドイツでロマネスク?!(2)ハルバーシュタットのタペストリー(2016.10.25)
- ドイツでロマネスク?!(1)フライジングの野獣の柱(2016.10.21)
「国:イタリア」カテゴリの記事
- 蘇るローストチキンの伝説(2017.08.02)
- 春の訪れを感じる風景~ヴェネツィア(ユーラシア旅行社のイタリアツアー)(2014.02.04)
- 旅のお供に:ダン・ブラウン『インフェルノ』(ユーラシア旅行社のイタリアツアー)(2013.12.11)
- 【共通テーマデー】旅に行きたくなるおすすめの映画『ツーリスト』(2013.10.01)
- 旅のお供に:池上英洋『神のごときミケランジェロ』(2013.08.12)
「著:山岸」カテゴリの記事
- 蘇るローストチキンの伝説(2017.08.02)
- 北欧ロマネスクの旅を発表しました(2017.03.05)
- ドイツでロマネスク?!(3)ヒルデスハイムの青銅扉(2016.11.04)
- ドイツでロマネスク?!(2)ハルバーシュタットのタペストリー(2016.10.25)
- ドイツでロマネスク?!(1)フライジングの野獣の柱(2016.10.21)
「国:スイス」カテゴリの記事
- 思い出の味~コーヒーブレイク(スペイン、イタリア)(2012.03.15)
- 悪魔にょろにょろ(スイス、イタリア)(2012.01.18)
- 夏は教会で納涼…(イタリア、スイス、スペイン)(2011.07.28)
- 聖週間より:捕縛…その時彼は(フランス、イタリア、スイス)(2011.04.21)
- 聖週間より:キリストの捕縛(イタリア、スイス)(2011.04.20)
「新約聖書」カテゴリの記事
- ドイツでロマネスク?!(1)フライジングの野獣の柱(2016.10.21)
- 聖ニコラウスさん(イタリア)(2012.12.25)
- 不信のトマス(スペイン、フランス、ギリシャ)(2012.06.19)
- ペンテコステー聖霊降臨(2012.05.25)
- 復活祭と神の子羊と羊(イタリア、スペイン)(2012.04.09)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント