私の好きな町:ポルトマリン(スペイン)
エジプトのアブシンベル神殿がダム建設で水没しそうになったとき、各国が協力し、遺跡を丸々丘の上に移築し、これを機に文化遺産・自然遺産を保護するための世界遺産という考え方や選定が行われるようになったことは有名な話です。
さて、日本はもちろん、世界のあちこちで、規模の違いはあれ、近年発電や水利の調整などのため大きなダムが作られ、それによって村や町が水に没してしまうということは、珍しくないことでしょう。
北スペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステラへ向かう道沿いにも、そんなドラマを経験した小さな小さな村があります。
ポルトマリン村、コンポステラまで約95km。
ミーニョ川を見下ろす丘の上にぽつねんと佇んでいます。
ガリシアの山中から流れ出した水が流れ込むミーニョ川は、北のルーゴのあたりからポルトマリンを経て南のオーレンセのあたりで流れを西に転じて、スペインとポルトガルの国境をなしながら大西洋に注ぎます。
1956~62年にかけ、このミーニョ川に作られたダム(町からは40kmほど離れています)によってできた貯水湖ベルサール湖によって元のポルトマリンは水中に没してしまいました。
ポルトマリンは巡礼路に沿って発展してきた町で、ミーニョ川の両側に広がる地区と道を結ぶ古い石橋がありました。
橋は、12世紀初頭に、レオン=カスティーリャのウラカ女王とアラゴン王アルフォンソ1世(一応二人は夫婦の関係にあるはずですが…)との戦争で破壊されてしまいましたが、1120年に再建されました。
ダム建設に際し、この橋も丘の上に移築されました。
村の入り口に参道のように建って私たちを迎えてくれます。
てっぺんには雪の聖母礼拝堂。
このほか、村の人たちがひとつひとつ石を運んで移築したものに、同じく12世紀のロマネスク様式で作られた聖ニコラ教会と1182年の刻印がある聖ペテロ教会の扉口があります。
現在は丘の上の小さな村では、コンポステラへ向かう巡礼者達が逗留したりくつろぐ姿が見られます。
メインストリートを登って町の中心広場に聳える聖ニコラ教会を見上げると、この長閑な村の人たちに秘められた、熱い情熱と行動力がひしひしと伝わってきます。
(山岸)
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