ドイツでロマネスク?!(1)フライジングの野獣の柱

ヨーロッパの旅で厄介な移動宗教祭日といえば、
カーニバル、イースター!というのが一般的で、大きなお祭りや商店の休暇などもあるので、厄介ながら結構ちゃんとチェックをするものです。
他方、祝日ではあってもお店の営業や観光地の開閉館に影響が少ない(もちろん教会は注意が必要です。ミサがあるので)他の移動祝祭日はおざなりになりがち。
そんな休日の中で比較的記憶されているのが、「主の昇天の日」と「聖霊降臨の日」でしょう。
イースターの日曜日から数えて、
40日後の木曜日が、磔刑→復活を遂げたイエス・キリストが天に昇っていった日。
その10日後が聖霊降臨の日で、ペンテコステとも言われる日で、カトリックの暦では、2012年は5月27日がその日にあたります。
ハッピーイースター!
毎年春分と満月の関係で移動する復活祭の日
今年のカトリック暦では、昨日4月8日がイースターでした。
イースター近くになると、ヨーロッパの町々では卵やウサギをモチーフにしたかわいいお菓子や飾り付けがショーウィンドーを賑やかし、
休暇を故郷で過ごそうとする人々の大移動が起こり
イースター明けの月曜日には、お祝いの羊を丸焼きにする煙が香ばしく立ち上ります。
この時期だけの情景にはいつも心躍ります。
写真はイタリア、シチリア島の伝統的なマジパンでできた羊君。(眉毛がたくましい)
前回の更新で百合の花と受胎告知のお話を致しましたが、
例に挙げたのは古代ギリシャとルネサンス期の絵でした。
さて、では我らがロマネスク美術における受胎告知はどんな姿だったのでしょうか。
時代と場所によるのですが、大雑把に別けると2パターン。
マリア様が椅子に座っているか立っているか。
初期キリスト教芸術では、ヘレニズムの流れを汲んでいるのが椅子に座って粛々と天使の言葉を受け入れている聖母を
エルサレムからシリアへ発展した様式は、手仕事をしていた聖母が立ち上がり、天使の言葉を聞いています。
中世の初めには2つの様式は互いに影響しあい、混ざり合い、両方の系統の写本や装飾品が入ってきていたフランスの教会では、更に各工房のアレンジが加わります。
(写真は、フランス、シャリテ・シュル・ロワール「ノートルダム教会」タンパンの受胎告知。
聖母の後ろに直前まで座っていたのであろう椅子が描かれています。)
クリスマス、と聞き頭に流れるのは「クリスマスの12日」や「諸人こぞりて」のメロディーや、
カチカチのジンジャーブレッドマン、ドライフルーツたっぷりのケーキ、赤と緑と白のキャンディケーンの甘い香り。
綿をちらしたクリスマスツリーを飾っていたのはいくつの頃までだったでしょうか…
最近、クリスマス時期に気になるのは、
キリスト降誕のシーンを再現したジオラマ人形プレゼピオです。
イタリアのアッシジ、聖フランチェスコが始めたともいわれています。
(イタリアのプレゼピオについてはこちらの記事もご参照下さい。)
南仏のサントン人形も素敵ですね。
写真はマルタのゴゾ島、ヴィットリアの大聖堂にて。ふわっとしてる植物はカイワレのような若芽だそうです。
こんなお人形が、この時期のヨーロッパのあちこちの街角を飾ります。
聖週間の物語は、木曜日の最後の晩餐、金曜日の磔刑、日曜日の復活が大きなハイライトといえますが、磔刑に替えて教会などで描かれるモチーフがあります。
それは、十字架にかけられたキリストを、刑の後、十字架から降ろす『十字架降架(またはキリスト降架)』のシーンです。
「フランダースの犬」で主人公が憧れる、ルーベンスの傑作も、この十字架降架を描いたものでした。
さて、十字架降架ですが、もちろん主役は人の子として死んでしまったキリスト。
他に登場人物は、イエスの遺体の引き取りを許されたアリマタヤのヨセフ(養父ヨセフとは別人)とニコデモ、そして聖母マリアと聖ヨハネの4人です。
写真はフランス、ノアン・ヴィックのサン・マルティン教会ですが、キリストを肩に支えているのがヨセフ、左手の釘を抜いているのがニコデモ、左手の下で頬に手を当てて悲しみを表現しているのが聖ヨハネです。
この絵は入り口寄りに描かれていた聖母は剥落してしまってよく分かりませんが、釘を外されたキリストの右手を自分の頬にあて、その死を悼んでいます。
十字架の上に浮かんでいるのは、顔を覆う月と太陽です。
キリストが絶命した瞬間、昼間の空が闇に包まれ(日蝕)たということから、月と太陽が顔を覆い世が闇に閉ざされた様を表現しているのです。
前回ご案内した、キリストの視線を受ける人物…それは後光つきなのに人に刃物を突きつけているこの人です。
そう、捕縛される瞬間に、キリストがユダでも自分を捕らえようとする人々でもなく気にかけていたのは、十二使徒筆頭の聖ペテロです。
キリストを捕らえに多くの人々(大祭司率いる一師団とも群集とも)が詰めかけ、騒然とする中、ペテロは兵士の一人につかみかかりその方耳を切り落としてしまいます。
それを見たキリスト、「剣によって戦うものは、剣によって滅びる・・・」と言ってペテロの行為をたしなめます。
ツィリスのサン・マルティン教会の天井画で、キリストの捕縛のひとつ前のパネルが上の写真です。天井画の各パネルは幾重もの枠線で囲われているのですが、この2点はとてもよく似た線が使われています。
キリストの指差す先には人を傷つけるばかりの剣があるのです。
続いて、フランス、ノアン・ヴィックのサン・マルティン教会の方です。
刃物を振り上げる聖ペテロ。
左手は既に兵士の耳をわしづかみにしています。
兵士を見下ろすペテロの目にためらいはないように見えます。
一方一際小さく書かれた兵士は、無表情にペテロを見上げています。
手に力もなく、もうすっかり観念してしまったのか?という顔です。
人物の重要度によって人の大きさを描き別けているので、なんだか子供が叱られているようにも見えてしまいます。
昨日に引き続き、聖週間のストーリーからキリストの捕縛のシーンです。
まずは、南イタリア、ナポリ近郊のサンタンジェロ・インフォルミス教会の内陣フレスコ画です。
11世紀後半の作品で、ビザンツの修道士の画法が用いられているといわれていますが、背景の青や人物の躍動感溢れる動きにご注目を。
登場人物の肌の色も、赤・黒・青といった顔色も混じり、東方やアフリカとの交易・交流があった南イタリアならではの発想に感じられます。
このユダはキリストの左手側からやってきています。
最近のコメント